研究の目的と意義
平和研究(peace studies)は、第二次世界大戦における総力戦態勢、大量破壊兵器の登場、ジェノサイドといった経験をもとに作り上げられてきた。とはいえ、平和研究のアジェンダはこうした経験に留まらない。平和研究は、そのアイデンティティを「人間の潜在的自己実現可能性を妨げるもの」=「暴力」概念(J・ガルトゥング)に求めることによって、戦争、紛争、南北問題などの地域、ナショナル、グローバルに現れるマクロな暴力といじめなど日常生活に現れるミクロな暴力とを一貫して暴力の制御の実践という観点から論じることができるようになったのである。
暴力概念の広さは広範な暴力現象を研究対象にすること、暴力の要因の複合性に学際的にアプローチすることを可能にした。他方で、扱う対象の拡大とアプローチの多様化が、研究する者の連携を困難にしたところもある。結局、平和研究という名の下に、個々の研究者が従来のディシプリンからタコツボ型に研究をすすめるという状況、もしくは既存のディシプリンとの緊張関係を感じることなく自分の経験を語り主義を主張する傾向を一部で生み出している。
現在欠けているのは平和研究の固有性の再検討、すなわち、「暴力現象」の再フレーミングである。ガルトゥング-K・ボールディング論争を見るまでもなく、平和研究においては、「平和研究とはなにか」、換言すれば「なにを現在、暴力現象としてフレーミングするべきなのか」が常に重要な課題であった。この課題に答えることによって、広範な「暴力現象」を関連した形で認識すること、認識と解決実践のためにアプローチを交差させることの必然性が明確になる。
核の問題が依然として最重要課題の一つであることに変わりはないが、グローバル化の進展により「越境」が常態化する中での、民族紛争やレイシズム、さらには新自由主義と「北」側における「貧困」の再問題化を前に、どのようにして平和研究の観点から「暴力」を(再)フレーミングするのかが現在の重要な課題になっているのではないだろうか。
本研究は、この暴力のフレーミングをいかに可能にするのかという観点から、市民にとって共通に取り組むべき問題を発見する方法として注目を浴びている討議民主主義論について先行研究を、その理論研究と事例研究を共に批判的に検討する。そのうえで暴力の多義性を受け止めるフレーミングという観点から、平和研究における民主主義論の可能性を探ろうとするものである。
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